吉岡酒造場の酒造り

奥山から流れこむ清水が蔵を潤しています

吉岡酒造場について

江戸時代のなごりを留めた、伝統ある酒蔵。

日本海に面し、国の特別名勝・天橋立を有する丹後半島には三つの山系があります。その一つ、熊野山系の主峰である金剛童子山(613.4m)は役行者が修行したと伝えられ、細川ガラシャが隠棲した旧竹野郡一の高山で、丹後半島のほぼ中央に位置しています。
この金剛童子山を臨む弥栄町で、寛政元年(1789)に初代・吉岡直七が酒造りの免許を取得。熊野山系の南東にかつてあった吉野山の名を銘柄にいただき、金剛童子山の伏流水を用いて酒を造り続けています。昔は水車で精米していたなごりか敷地には清らかな小川が流れ込み、夏は河鹿が鳴き秋は柿が実る酒蔵。風土と季節を感じながら、丹後の米と丹後の人が美酒を育みます。

吉岡酒造場の酒造り

いまも全量、槽しぼりで。手間をいとわず丁寧に。

蔵に引いている金剛童子山の豊かな伏流水は、やや硬水ながら甘みがあってやわらか。使用する米はほとんどが地元・丹後産です。そして地元で生まれ育った蔵元家族と蔵人が、年ごとに変化する環境を五感で判断しながら酒造りをしています。昔ながらの丁寧な仕事を心掛け、全量を槽しぼりで上槽するのも私たちのこだわりです。
小さな酒蔵だからこそ、できること。早生米は使わず、厳しい丹後の冬が本格化して美酒が造れる環境の整う年明けから、自分たちの目が充分に行き届く量だけを造ります。 人の手と感性を頼りに、心を込めて造る弥栄の酒が「吉野山」です。

敷地を流れる小川は飲めるほど清らか。沢蟹が遊び、夏には河鹿のコロコロという鳴き声も聞こえます。

一年、一日のはじまりは、いつもお酒の神様へのご挨拶から。

毎年、自分たちの目が行き届く範囲で仕込みをします。

酒造りや検査に使用する道具はすべて清潔に整えています。

洗米し、浸漬した米を甑(こしき)で蒸し上げます。

ふつふつと発酵し、おいしい酒が出来上がります。仕込みには温度管理が大切ですが、昔は積もった雪で冷やしていたものです。

出来上がった醪(もろみ)を酒袋に詰めて、槽に積み重ねます。すべて蔵人の手作業で、手間と体力の要る仕事です。

私たちのこだわりは、全量槽しぼり。醪を詰めた酒袋を「槽(ふね)」という木枠に積み重ねて、上からゆっくり圧力をかけて酒をしぼります。現代は、出来上がった酒を縦型のアコーディオンのような「ヤブタ」に入れ、機械で圧力をかけてしぼりきるのが主流ですが、「槽しぼり」は強い圧力をかけずにしぼるため、雑味がなく上質な味わいの酒がとれます。
残った酒粕も、ふっくらした旨みがたくさん残って、おいしい粕汁や甘酒ができます。

メッセージ

心を込めて、伝統の火を絶やさぬように。

平成14年に長く酒造りをしてくれていた杜氏が病で引退したのをきっかけに、蔵へ入りました。それまでも幼いころから蔵の敷地は遊び場で、酒造りの仕事を見てきましたが、いざ蔵人になると苦労の連続でした。ずっと来てくれている先輩蔵人さんに教わりながら、杜氏として満足のゆく仕事ができるようになりました。
このあたりは丹後随一の米どころですから、昔は酒蔵がたくさんあってそれぞれに個性豊かな酒を造っていました。現在の京丹後市には数軒が営みを続け、そのうちの一つが吉岡酒造場です。私たち家族と地元の蔵人二人だけの小さな蔵ですが、土地に根ざした酒造りの伝統を受け継いで、これからも精進し続けます。

吉岡酒造場 8代目 吉岡直昭